死せる魂〈上,中,下〉 (1950年) (岩波文庫)

死せる魂〈上,中,下〉 (1950年) (岩波文庫) の詳細

（注：岩波文庫は上・中・下に分けられているが、上・中が第一部に該当し、下が第二部（ただし未完）に該当する）この作品は元来全部で３部になる予定、でロシア版『神曲』を目指していたらしい。地獄・煉獄・天国の構成の如く、最終的にはロシアの救済を描く予定であったが、二部からは中々筆が進まず、最終的には暖炉へと草稿を燃やし、完成した作品は日の目を見なかった。完成されている部分としては面白いと思う。ユーモアのある人物描写は巧みで引き込まれながらページをめくることができるし、物語も純粋に興味深い。しかしながら、物語は起承転結の内、起承までしか描かれない。その未完成故どうしても人にお勧めすることはできない。そして、その完成した部分だけを読む価値があるかどうか、と聞かれればやはり微妙である。少なくとも私は再読するだけの魅力が感じなかった。それは繰り返すが、面白い面白くない以前の問題で、完結していないからである。『神曲』を地獄編だけ見せられるのと同じであり、全体があってこそ初めて意味を持つものである、といっていいだろう。完成している部分だけを読めば、ロシア文学において燦然と輝く地位を持つに至るだけの素質を秘めてはいると思う。最終的にどういう展開をたどるのかは想像もつかないがその点でも惜しい作品である。そういえば『神曲』も地獄はわかりやすかったのに対して、天国は難解であった。完成しなかったのは、そのことも関係しているのかもしれない。